柱や梁に鉄骨を使用する建築構法は鉄骨造と呼ばれます。鉄骨造は、大きな空間をとれることやデザインの自由度が高くなるなどの理由から、工場や倉庫といった大きな建物を建設する際に選ばれることが多いです。実際に、国土交通省が公表したデータによると、2020年度の倉庫建築においては、その約70%を鉄骨造が占めているとされています。さまざまな建築構法がある中でも、工場や倉庫の建設に鉄骨造が採用されるのは、以下のようなメリットがあるからです。
- 木造と比較すると、鉄骨は個体差が生じにくいため品質が安定する
- 工場での組立加工が多く品質に左右されにくい高い強度が得られる
- 工期短縮ができる など
上記のようなメリットから日本国内での工場・倉庫建設は、そのほとんどを鉄骨造が占めるようになっています。
建物の強度が高い鉄骨造の倉庫も、築年数が経過すればさまざまな部分の劣化が進行します。したがって、出来るだけ長く倉庫を使用するには、適切なタイミングで倉庫リフォームを行わなければいけません。当記事では、どのような倉庫でもいずれ必要になる、倉庫リフォームについて解説します。
参照:建築物着工統計
Contents
リフォームとリノベーションの違い
近年、築年数が経過した倉庫などを改装し、カフェやライブハウス等、多目的な用途として利用することが増えています。そして実は、「倉庫リフォーム」について、こういった倉庫の用途まで変更するような改装を意味していると考える方が増加しています。これは、「倉庫リフォーム」とネット検索した場合、倉庫リノベーションに関する情報がたくさん表示されることから、リフォームとリノベーションを混同する方が多くなっているのが要因と考えることから、ここではリフォームとリノベーションの違いを簡単に解説します。
リフォームの意味
リフォームは、老朽化した建物を新しい状態に戻すことを意味しています。つまり、経年劣化などでマイナスな状態になっている部分を、リフォームすることにより『ゼロ』の状態に戻すという機能回復がリフォームの目的です。
倉庫リフォームを考えた場合、屋根や外壁の塗装劣化を塗り替えることで機能回復させる、屋根材や外壁材の耐用年数が近くなったため新たなものに交換するといった工事がリフォームです。
リノベーションの意味
一方、リノベーションは、既存の建物を改修することにより「元の状態よりも機能や利便性を向上させ、価値を高める」目的で行う工事です。
例えば、屋根の塗装を行う時、新たに断熱塗料を採用し屋根に断熱効果を持たせることや、結露・湿度対策のための空調設備を導入するなど、倉庫の機能をより良い状態にしていく工事がリノベーションです。なお、最近では、使わなくなった倉庫を改装し、オフィスや店舗、住居など、全く別の用途で利用することも、倉庫リノベーションと表現されています。
倉庫リフォームのメリット
築年数が経過した倉庫では、建物が目に見えて劣化しているのがわかるような状況でも、リフォーム工事が先延ばしにされるケースが少なくありません。これは、倉庫などの営業用施設は、建物のメンテナンス以外にもコストをかけなければならない部分が多く、倉庫としての機能が果たせるのならリフォームにかかるコストを他に回したいと考える企業が多いからかもしれません。
ただ、適切なタイミングで倉庫リフォームを行うことは、企業にとってもさまざまなメリットをもたらせます。以下に、倉庫リフォームにより期待できる代表的なメリットをご紹介します。
資産価値を維持できる
倉庫は、企業にとって大切な資産ですので、可能な限り資産価値を維持していきたいと考えるはずです。しかし、適切なタイミングで必要なリフォームを行わなければ、倉庫はさまざまな部分が劣化し、雨漏りなどの不具合が発生するようになります。適切な倉庫リフォームには、倉庫の資産価値を維持できるというメリットが期待できます。
労働災害の防止
倉庫では、多くの従業員が働いています。そして、倉庫の劣化が進むと、さまざまな不具合が発生することになり、それが原因となる労働災害の危険が高まります。
例えば、屋根のリフォームを怠り、倉庫で雨漏りが発生すると、床の水濡れで従業員が転倒して怪我をする可能性や、手すりなどの金属が腐食し、従業員が体重をかけた時に破損して、落下事故が起きるといったリスクもあるのでしょう。
こういった建物の不具合を原因とする労働災害は、適切なタイミングで倉庫リフォームを行うことで防げます。倉庫リフォームは、従業員が安心して働ける環境を整えることができるというメリットも期待できます。
企業イメージの向上
適切なタイミングで必要な倉庫リフォームを行うことは、企業イメージの向上にも繋がります。見るからに劣化した建物と適切なメンテナンスが行き届いた綺麗な建物であれば、後者の方が周辺住民や関係者に良いイメージを与えるでしょう。
倉庫リフォーム実施前に確認すべきポイント
適切な倉庫リフォームにはさまざなメリットがありますが、実際に倉庫リフォームを実施する前に確認すべきポイントがあります。
それは、倉庫としての操業を止めずにリフォーム工事を実施することができるのかという点です。通常の倉庫業務を維持しながらリフォーム工事を進めるためには、工事に伴う騒音や振動、粉塵などの対策が必要になります。さらに、食品物流に関わる倉庫の場合、温湿度管理への影響や工事に伴う臭気への対策が必要でしょう。この他にも、倉庫は事業活動のために多くの車両が出入りすることになるので、工事車両との交通整理なども必要になります。
倉庫リフォーム業者には、リフォーム工事に関する知識とスキルが必要なだけでなく、事業活動とリフォーム工事を並行して行うための知識や工程プランニング力が必要です。したがって、操業中の倉庫などにおけるリフォーム工事は、過去に同業種などの豊富な施工実績を持つ建設会社を選定することが大切です。
この他にも、倉庫の機能向上を目指すような改修工事(リノベーション)の必要性はないのかなど、総合的な機能検証も行っておくべきでしょう。
関連:軽視してはいけない。建物の改修における設計の大切さと検証方法
倉庫のリノベーションで確認すること
倉庫リノベーションを検討した場合、以下のポイントを確認しておきましょう。
用途変更の申請について
これは、古くなった倉庫について、住居や店舗など、他の用途として利用するために倉庫リノベーションを検討している場合です。この場合、場所や市町村によって、用途変更の申請手続きが必要になりますので、どのような書類が必要になるかを事前に確認しておきましょう。
なお、建築関連の知識がなく、自分だけではやりきれないと考える場合は、建設会社などにアドバイスを求めましょう。
劣化度合いを確認
倉庫をリノベーションして、他の用途として利用する場合、「古さがモダンでおしゃれ」と考え、古い倉庫を手に入れようとする方も少なくありません。ただ、リノベーションするとはいえ、おしゃれさだけでなく、建物の詳しい劣化度合いは確認しておかなければいけません。
まず、一つ目のポイントが、1981年以前と以後、どちらに建設された建物かという点です。1981年は、旧耐震基準が新耐震基準に切り替わるタイミングで、これ以前に建てられた倉庫の場合、リノベーション以外にも耐震補強にかなりのコストがかかる可能性があります。
さらに、鉄骨造の建物は、サビが弱点になるのですが、目に見えない部分でサビが進行していて、建物の耐久性に悪影響を与えている可能性があります。したがって、基礎や壁の中、柱や梁については、細部まで状態を確認しましょう。
機能検証が重要
鉄骨造は、非常に強い建物が実現できると考えられています。実際に、冒頭でご紹介したように、安定して高い強度を持つ建物を作ることができる構法ですので、日本の倉庫の大半を占めています。
ただ、建物としての機能面については確認が必要です。例えば、鉄骨造の弱点の一つとしてよく挙げられるのは「外気温の影響を受けやすい」ことです。鉄骨造の建物は、断熱性が低い傾向にありますので、通常の倉庫を温度管理倉庫にリノベーションするといった場合には、断熱性を高めるための対策が必須です。
なお、鉄骨造の建物は、内部結露によりサビが発生するケースが多いので、防錆加工についても検討しましょう。
以下の記事では、結露を発生させないためのポイントについて詳しく説明しております。
工場や倉庫での湿度対策とは?結露を発生させないためのポイント
まとめ
今回は、鉄骨倉庫のリフォームについて、そのメリットや確認すべきポイント、リノベーションとの違いなどをご紹介しました。
この記事でご紹介したように、倉庫リフォームは、経年劣化などでマイナスになった建物をゼロの状態に戻すことが目的の工事です。
倉庫リフォームは、建物の劣化を起因としたトラブルを防止し、事業に悪影響を出さないためにも、適切なタイミングで行わなければいけません。なお、倉庫リフォームのタイミングや費用目安、スレート屋根の倉庫リフォームについては以下の記事もぜひご参照ください。
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1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者