さまざまな製品を製造する工場では、製造過程で生じる「ニオイ」が悩みの種となる場合があります。ニオイの感じ方は人それぞれではあるのですが、工場からの臭気は自治体への悪臭苦情の中でも多く割合を占めています。
引用:環境省資料より
上のグラフは、令和元年度に全国の地方公共団体が受理した悪臭に係る苦情について、悪臭の発生原因をグラフ化したものです。これを見ると、悪臭の発生は野外焼却が原因となっている場合が圧倒的に多いように感じますが、製造業を一つの発生原因とみなすと15.9%となり、工場からの臭気が第二位に位置します。
悪臭は、騒音や振動と並んで、感覚公害と呼ばれる公害の一種とされています。そして日本では、悪臭防止法という法律により、人が感じる「嫌なニオイ」や「不快な臭気」に対してさまざまな規制が設けられています。工場で製品を製造する限り、ある程度の「ニオイ」が生じることは致し方ないことかもしれませんが、近隣住民から悪臭に関する苦情が出ると、さまざまな対応が求められます。
そこで当記事では、工場で発生する悪臭がどのようなトラブルを引き起こすのか、また悪臭によるトラブルを防止するためにはどうすれば良いのかなどについて解説します。なお、悪臭防止法の概要については、弊社が運営する別サイトで解説していますので、以下の記事も確認してください。
関連:食品工場の臭気対策を悪臭防止法・悪臭規制を基に解説
Contents
工場の臭気が引き起こすトラブルとは
悪臭防止法は、以下の目的で制定されています。
悪臭防止法は、規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行うこと等により生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。
簡単に言うと、工場などから発生する悪臭が、近隣住民の生活環境を壊さないようにする目的の法律と言えます。ただ、工場で発生する悪臭は、工場外の近隣住民に悪影響を与えるだけでなく、工場内で働く従業員にとっても悩ましい問題となります。
ここでは、工場で発生する悪臭が引き起こす主なトラブルを解説します。
従業員の健康問題から早期退職に発展する
工場内で発生する悪臭は、単純に「嫌なニオイ…」と不快感を与えるだけでなく、従業員が悪臭を原因に体調不良を起こす可能性があります。特に、悪臭の種類によっては、めまいや吐き気など、健康に悪影響を与える可能性もあります。
また、悪臭によって直接的に健康を害さなくても、ニオイにより集中力が低下して作業効率が悪くなる、人的ミスが増える可能性があるなど、さまざまな弊害が発生する恐れがあります。さらに最悪の場合、「作業環境が劣悪…」と言った情報が外部に流れ、新規採用活動に悪影響を与えたり、既存従業員の早期退職を招くリスクがあります。
近隣住民から悪臭苦情が出る
工場で発生する悪臭は、工場内だけにとどまらず、工場の外に漏れだすケースがあります。工場外に悪臭が拡散した時には、近隣住民から苦情が寄せられることが考えられます。冒頭で紹介したグラフにもあるように、全国の地方公共団体が受理する悪臭に係る苦情については、工場から発生する悪臭が毎回上位に位置しています。
近隣住民と悪臭を原因としたトラブルが発生した時には、市町村及び特別区の長から改善勧告、改善命令が出されます。さらにそれに従わない場合は、懲役や罰金などの罰則も用意されています。工場の運営を考えた時には、周辺住民との関係は良好な状態を維持したいはずですし、悪臭によるトラブルを引き起こさないためには、工場の外にニオイを漏らさないなど、工場内で悪臭対策を実施する必要があります。
工場での具体的な臭気対策について
前項で紹介したように、工場で発生する悪臭は、工場内外にさまざまな悪影響をあたえ、工場の事業活動に支障が生じる恐れすらあります。それでは、実際に悪臭問題が発生した時には、どのような対策を施せば良いのでしょうか?
ここでは、環境省が公表している過去に工場で発生した悪臭苦情について、実際に取り組まれた対策をいくつかご紹介します。
食品製造工場での悪臭苦情対策
この事例は、にんにくの調理に伴うニオイに対して、近隣住民から苦情が寄せられたというものです。
苦情の原因は、約3kgの生にんにくをみじん切りにしたうえで炒める作業を行っていたところ、この時に発生する強烈なニオイが、近隣住民宅まで届いたとのことです。調理排気については、ダクトにより屋上から排気していたとのことですが、脱臭装置を設置していなかったことから、ニオイがそのまま工場外に拡散し、苦情につながっています。
この悪臭トラブルの解決に際して、自治体からは「脱臭装置の設置、製造工程の変更」の指導が行われています。そして、事業者側は、以下のような対応を行うことで、悪臭の対策を行っています。
生にんにくのみじん切り及び炒める工程を廃止し、調理済みにんにくを外部から購入
《改善後の状況》
にんにくを使用する工程を廃止したことにより、悪臭は改善された。
厨房排気による悪臭については、排気口の方向・高さを変えるなど、設備面からの対策も可能なのですが、この事例では周辺に住宅が多くあることから、調理工程の変更による改善が目指されたのだと思います。
飲食店での悪臭改善事例
これは工場での悪臭改善事例ではないのですが、設備面からの悪臭対策として非常に分かりやすい事例なのでご紹介します。街中で営業されている飲食店にて、厨房排気のための換気扇がビルとビルの間に設置されていたことから、調理の臭いと煙がその隙間に充満し、近隣住民から苦情が出たという事例です。
飲食店が営業を開始する夕方以降は、煙が周辺に充満するため、窓も開けられないとの苦情だったそうです。今回の悪臭苦情については、工事の容易さから、隙間が約50cmほどしかないビルとビルの隙間に換気扇を設置したことが大きな原因と考えられます。悪臭の改善のため、排出口を屋上まで延長するという対策が施されました。
排出口を屋上まで延長する。
《改善後の状況》
ダクト設置に伴い苦情はなくなり、新たな苦情は発生していない。
引用:環境省「悪臭苦情対応事例」より
工場で発生した悪臭を建物外に排出する際には、排気口の方向や高さを検討することで、近隣への影響を少なくすることができます。悪臭苦情が発生してから、排出口の方向を変える改修工事を行うなどの対策がとられるケースも多いですが、そもそも苦情を出さないためには、工場建設時に悪臭が拡散しないように排出口の位置・高さ・方向を慎重に検討しましょう。
プラスチック部品製造工場での悪臭苦情対策
これは、住宅に隣接するプラスチック部品製造工場での悪臭苦情事例です。この工場では、プラスチック射出成形機で成形したときに熱と臭いが発生するのですが、それを換気扇により工場外へ排出しています。ただし、換気扇が隣接する住居側に設置されていたため、ニオイがお隣の住民に苦痛を与えていたという事例となります。
この事例では、悪臭の発生源となる工場の排出口から隣家との敷地境界までほとんど距離がないため、事実上、工場で発生した悪臭を隣家に排出するという形になっており、苦情に発展しています。したがって、自治体からは、悪臭対策として「排出口の位置を変更する」などの対策を検討するように指導が行われています。
排出口を苦情者宅と反対側(道路側)に変更した。
《改善後の状況》
排出口の変更でとりあえず、苦情は解決した。
環境省の「悪臭苦情対応事例」内には、上記以外にもさまざまな悪臭苦情例と、その改善対策が報告されていますので、以下の資料は是非確認してください。
参照資料:環境省「悪臭苦情対応事例」より
まとめ
今回は、工場の悪臭が原因となるトラブルと、実際に悪臭苦情が発生した時、どのような対策を行えば良いのか、過去に実際にあった悪臭苦情を参考にご紹介しました。
さまざまな製品を製造する工場では、製造過程で非常に強烈なニオイが発生する場合があります。記事内で紹介しているように、悪臭は騒音や振動と並ぶ公害の一種に認定されており、周辺の生活環境を保全するため、悪臭を発生させる施設が何らかの対策を施さなければならないと法律で定められています。また、工場内で発生する悪臭は、そこで働く従業員にもさまざまな悪影響を与えます。常に悪臭が漂っている空間になると、そこで働きたいという気持ちも低下してしまいますし、最悪の場合、労働環境の過酷さから従業員の早期退職を招く恐れが生じます。
工場にとって「ニオイ」は、製品の製造のためには、ある程度発生することは致し方ないとは思いますが、悪臭により労働環境が劣悪になったり、周辺住民の生活環境を壊すようなことが無いよう、悪臭対策は必須です。
工場や倉庫での適切な臭気対策は、従業員が安全で快適に働く環境を作る、近隣住民t良好な関係構築のためにも重要です。「臭気対策」にお悩みの方は工場・倉庫の建設・改修実績豊富な三和建設に是非ご相談ください。
1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者