令和4年(2022年)4月に大気汚染防止法に基づく石綿(アスベスト)障害予防規則の改正が施行され、建築物などの解体工事・改修工事(リフォームやリノベーション)を行う際には、事前に建材などのアスベスト含有の有無を調査することが義務付けられています。
アスベストによる健康被害の危険性は、広く周知されるようになっていますが、建物の解体や改修工事の際にアスベスト事前調査が必要になった点や、具体的にどのような調査を行う必要があり、いくらぐらいの費用がかかるのかについて知らない事業者様も少なくありません。アスベスト事前調査は、改修工事に取り掛かる際、必ず必要になる作業です。
この記事では、アスベスト事前調査が義務化された背景や、具体的にどのような流れで調査が行われるのかについて解説します。
Contents
アスベスト事前調査が義務化された背景とその内容
アスベストは、かつて建築材料としてさまざまな場所に利用されてきたのですが、その粉塵を吸入することで肺がんや中皮腫などの重大な健康障害を引き起こす可能性があることが明らかになり、規制強化されました。日本では、1970年代よりアスベストによる健康被害が問題視され始めたとされていますが、なぜ2020年代に入り建物の解体や改修工事の前にアスベスト事前調査を行うことが義務化されたのでしょうか?
ここでは、アスベスト事前調査報告が義務化された流れや報告義務対象となる工事の種類などについて解説します。
アスベスト事前調査義務化の流れについて
アスベスト事前調査報告は、2021年4月1日より改正大気汚染防止法が施行され、さらに2022年4月1日からアスベストの調査と報告が義務化されたという流れで規制が強化されています。
日本では1970年代からアスベストによる健康被害が問題視されるようになっていて、1975年にはアスベストの使用が規制され始めています。ただ、アスベストの危険性が完全に認識されたのは1990年代に入ってからとされており、それまではさまざまな場所でアスベストが使用され続けています。1990年代にアスベストの危険性が本格的に認識されて以降は、2006年に労働安全衛生法施行令が改正され、アスベスト含有率0.1%を超える製品は、製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面禁止されることとなっています。
しかし、法改正以前に建てられた建築物に関しては、さまざまな場所にアスベストが使用されているケースも少なくありません。そして、アスベストの健康被害については、年間1,000件前後の保険給付があるとされているほか、2021年5月に建設アスベスト訴訟において、最高裁が「国とメーカーの責任を認める」という判決を下しています。国は、これらのことを背景として、石綿(アスベスト)の法規制について年々強化を続け、今回のアスベスト事前調査の義務化に至ったという訳です。
なお、大気汚染防止法改正によるアスベスト事前調査報告義務化のポイントは以下の通りです。
引用:環境省資料より
建設アスベスト訴訟に係るこれまでの経緯
アスベスト事前調査の報告義務対象工事について
アスベストの有無に関わらず、以下のいずれかに該当する場合は、事前調査結果の報告が義務となります。
引用:厚生労働省資料より
なお、建築物ではありませんが、「総トン数が20トン以上の船舶(鋼製のものに限る)の解体・改修工事」も令和4年1月13日厚生労働省令第3号により対象に追加されています。
報告義務については、解体工事は面積のみで判断され、リフォームなどの改修・補修工事は請負代金のみで判断されます。したがって、解体工事は、請負金額が100万円を超える場合でも、床面積が80平方メートル未満なら報告の義務はありません。また、リフォームなどの改修工事では、100万円未満の請負代金になるケースは報告の義務はありません。なお、100万円以上のラインについては「税込」という部分に注意してください。
この他、2006年9月1日以降は、アスベスト含有の資材が使用禁止となっているため、これ以降の着工日の建物であると図面などで確認できるものは、書面調査をもって事前調査結果報告書を作成し、報告を行うことが可能です。ただ、2008年2月に分析対象のアスベストが拡大されているため、2008年2月5日以前の事前調査に相当する調査結果(特にアスベスト無しという結果のもの)については、再度調査が必要とされます。
なお、アスベストの事前調査については、建築物などの解体・改修などの際、全ての工事において義務化されています。調査結果の報告義務がない場合でも、アスベスト事前調査は行わなければいけません。
※「素材にアスベストが含まれていない」「アスベストが飛散するリスクがない」と明らかな場合は事前調査が不要になるのですが、例外的なケースなので、基本的にはアスベスト事前調査は必須と考えておきましょう。
アスベスト事前調査の流れ
アスベストの事前調査は、基本的に以下の流れで進められます。
引用:環境省資料より
上の図だけでは調査の流れがイメージしにくいと思うので、いくつかのポイントに分けてもう少し詳しく解説します。
- 専門家に依頼する
アスベスト事前調査は、専門的な知識を有する有資格者が行わなければいけません。具体的には、「①一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)」「②特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)」「③一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)」のいずれかの資格を有する人です。さらに、2023年10月からは、厚生労働省が指定するアスベスト調査の講習修了も必須条件となっています。 - 書面・図面調査
建築物の設計図書などから書面調査が行われます。改修履歴などの記載も確認し、試料採取が必要と考えられる場合、採取予定場所なども決定します。 - 現地での調査
現地にて目視調査が行われます。内装の内側など、建築物の細部までしっかりと確認が行われます。 - 試料採取
目視調査だけではアスベストの有無が判別困難な場合、アスベスト含有の可能性がある部分の検体を採取し、専門機関にて分析を行います。 - 分析調査
専門機関にてアスベストが含有されているかどうかを検査します。通常の工事であれば、アスベスト含有率が0.1%を超えているかどうか調査する定性分析という方法が採用されます。 - 報告書の作成
調査結果に基づき、報告書を作成します。また報告書は、工事開始2週間前までに労働基準監督署や自治体に提出する必要があります。一般的に、報告書は調査を行った機関が作成し、元請け業者はその報告書を基に、専用のサイトから報告するという仕組みになっています。
石綿事前調査結果報告システムは、動画などで使い方などが解説されているので、一度確認しておきましょう。
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アスベスト調査の費用について
アスベストの調査にかかる費用は、対象となる建物の規模や現地の場所により変動があるものの、70,000円〜130,000円程度が相場とされています。また、そのうち事前調査にかかる費用は、40,000円〜80,000円程度とされています。調査費用の内訳については以下の通りです。
- 図面調査(事前調査)・・・20,000~30,000円
- 現地での目視調査(事前調査)・・・20,000円~50,000円
- 分析調査(成分分析)・・・30,000円~50,000円
2022年4月以降は、図面調査だけでアスベストの有無を判断することは禁止されているため、現場での目視調査までが必須となります。そして、目視調査でアスベストの含有の判断ができなかった場合、サンプルを採取して分析調査を行わなければいけません。アスベストの調査は、国や自治体の補助金が利用できる場合があるので確認してみましょう。
アスベスト改修工事の流れについて
ここまでの解説で、建物の解体や改修工事を行う際には、アスベストが含有されていないか事前に調査を行わなければならないことが分かっていただけたと思います。当然、アスベストが含有されていると判断されれば、それを除去しなければいけません。
そこでここでは、アスベストを除去するための改修工事の流れをご紹介します。なお、以下の流れは、事前調査完了後の工程となります。
STEP1 作業計画の策定と届出
事前調査の結果をもとに、改修作業、封じ込め・囲い込みの作業方法や飛散防止のための対策を含む作業計画を策定します。
なお、作業レベルに応じて、所轄労働基準監督署長に届出が必要になる場合があります。届出が必要な場合、書類を作成し提出を行います。
STEP2 隔離養生を設置
アスベストの飛散防止のため、作業箇所とそれ以外の箇所を隔離し、作業箇所は、プラスチックシートや防炎シート、防音パネルなどで囲います。
なお、アスベストの除去作業を行う箇所については、作業者以外の立ち入りを完全に禁止とし、作業者はアスベストを吸引しないように必要な対策をすることが義務付けられています。例えば、作業所の排気には集じん・排気装置を設置することで作業空間の負圧を保つ、作業者は呼吸用保護具を着用するなどです。
STEP3 アスベスト除去工事を行う
現場の状況やアスベストレベルに応じて、適切な対策作業を行います。アスベストレベルは、粉じんの飛散のしやすさによって3段階に分けられています。具体的な作業内容は、以下のような方法があります。
- 封じ込め工法
アスベスト含有の吹き付け材の上から、液剤を吹きかけることで、外側にアスベストが飛散しないように封じ込める工法です。短期間で工事が可能、施工中にアスベストが飛散する可能性が低いなどのメリットがあるのですが、建物内にアスベストが残るので、根本的な問題解決にはなりません。 - 囲い込み工法
アスベストを含有する箇所を、板材などアスベストを含有していない素材で囲い込む方法です。外側から板材などで囲うことで、アスベストを完全に密閉し、飛散するのを防ぐ工法となります。なお、この方法も、アスベスト自体は残るので、いずれ除去作業が必要になります。 - 剥離工法
作業箇所を薬剤で湿潤化することで、アスベストを含む仕上塗材や下地調整材を軟らかくし除去する方法です。湿潤化することで、飛散リスクを軽減し、安全に除去作業が可能となります。剥離工法は、散水の必要がなく、レベル3の除去作業で使用されることが多いです。 - ウォータージェット工法
超高圧水を噴射することで湿潤化しながら、アスベストを除去する工法です。水圧の高い水のみ使用した除去作業となるため環境にも優しく、安全な除去を行うことが可能です。
なお、除去工事が終わって作業場の隔離を解く前に、資格者によるアスベストなどの取り残しがないことを確認する必要があります。(令和3年4月から)
STEP4 隔離養生の解除・清掃
除去作業完了後は、真空掃除機などを使用し入念に清掃します。そして、アスベストが残っていないことが確認出来たら作業完了です。なお、除去作業に用いた保護具や足場・工具などは、専用の容器に梱包して持ち出すことで、外部へのアスベスト飛散を防ぎます。
STEP5 産業廃棄物の処理
アスベスト廃棄物は、一般の廃棄物とは異なるため、決められた方法で処分しなければいけません。アスベスト廃棄物は、特別管理産業廃棄物の許可証をもった業者のみが処分に対応することができます。除去したアスベスト廃棄物は、専用の袋に二重詰めで梱包することで、安全に収集・運搬され、許可を受けた最終処分場にて処理が行われます。
なお、アスベスト除去工事完了後は、施工報告書などをまとめ、所轄官公庁へ工事完了の報告を行わなければいけません。また、作業記録は、1月以内ごとに記録を作成し、作業員が常時作業に従事しないこととなった日から40年間の保存が義務付けられています。
アスベストの除去にかかる費用について
アスベストの除去にかかる費用については、国土交通省がおおよその目安となる費用を公表していますので、以下を参考にしてください。
除去費用は個別条件によります。見積りは近所の建設業者や除去業者に相談してください。
処理する面積によって処理単価に差があるようですが、おおよその目安となる費用を下記に示します。この除去費用は、2007年1月から2007年12月における、施工実績データより算出された除去単価です。
300m2以下 2.0万円/m2 ~ 8.5万円/m2
300m2~1,000m2 1.5万円/m2 ~ 4.5万円/m2
1,000m2以上 1.0万円/m2 ~ 3.0万円/m2
注)
1.アスベストの処理費用は状況により大幅な違いがある。(部屋の形状、天井高さ、固定機器の有無など、施工条件により、工事着工前準備作業・仮設などの程度が大きく異なり、処理費に大きな幅が発生する。)
2.特にアスベスト処理面積300m2以下の場合は、処理面積が小さいために費用の幅が非常に大きくなっている。
3.上表の処理費用の目安については、施工実績データから処理件数上下15%をカットしたものであり、施工条件によっては、この値の幅を大幅に上回ったり、下回ったりする場合もありうる。
引用:国土交通省webサイトより
まとめ
アスベストは、人が吸引してしまうと重大な健康被害につながる恐れがあるなど、取り扱いが非常に難しい物質で、必要な手順を慎重かつ正確に実施しなければいけません。
記事内でご紹介したように、現在では、建物の解体や改修工事を行う際には、アスベストの事前調査と報告が義務化されていて、報告義務を無視した際には、厳しい罰則も用意されています。アスベストに関しては、使用が完全に禁止されたのは2006年なので、古い建物が多い工場や倉庫の場合、建物内にアスベストが残っている可能性があると思います。
工場倉庫などの屋根や外壁のメンテナンスにおいてアスベストの調査や処理が必要かもしれない企業様は、ぜひ三和建設にご相談ください。安全に改修工事を終えられるよう事前調査から丁寧に実施しています。
1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者