物流倉庫などの大規模倉庫は窓や仕切りが少ない広い空間に、大量の荷物を保管するという特性上、火災が発生した場合にその被害が甚大になりやすい傾向があります。また、物流の拠点となる倉庫で火災が発生すると、自社だけの問題にとどまらず、荷物を預けている荷主企業や近隣の建物、住民への被害にもつながりかねないため、倉庫火災を防ぐための対策が重要です。そこで当記事では、そもそも倉庫火災が大規模になりやすい理由やなぜ火災が発生するのか、また倉庫での火災を防止するための対策などについて解説します。
Contents
倉庫の構造的な特徴と火災が大規模になりやすい理由
倉庫は、可燃物が大量に保管されているケースが多いことから、十分な火災対策が施されていない場合、火災が発生すると周辺地域を巻き込むような大火災につながる可能性があります。倉庫火災を防ぎ安全な運営を行うためには、倉庫の構造的な特徴を十分に理解したうえで適切な防火計画を立てることが大切です。
倉庫の構造的な特徴について
それでは、倉庫の構造的な特徴をいくつかご紹介します。
- 荷降ろし・荷積みに使用する開口部以外、窓や出入口が極端に少ない
多くの倉庫に見られる構造的特徴の一つとして、荷積用の開口部や従業員の出入り口、採光を目的とした窓などは設けられているものの、一般的な建物と比較するとその数が極端に少ないというものがあります。倉庫は、住宅系に属する建物とは異なり、建築基準法による採光の規定がないことから、窓が少ない構造となっています。 - 建物の大きさに対して人が少ない
倉庫は「荷物の保管」が主な目的の施設なので、建物の規模に対して常駐する人が少ないことが一般的です。大規模倉庫火災での初期消火の遅れは、倉庫内部で火災が発生しても、火災報知機などが作動するまで、火災に気づくことができない人の少なさが大きな要因になっています。したがって、可燃物の保管時や火災が発生しやすそうな場所などは、人を多く配置する、見通しを良くするなど、事前の対策が必要です。 - 大量の可燃物を保管
倉庫は、荷物を保管するための施設なので、内部には大量の可燃物が保管されます。また、倉庫にもさまざまな種類が存在しており、中には消防法で指定される危険物の保管が目的となる施設もあります。そして、倉庫で保管する物品の特性に合わせた設備を整えなければ、火災が大規模になる可能性があります。例えば、排煙設備が不十分だと火災が発生した場合、倉庫内に短時間で煙が充満したり、バックドラフト現象を起こすなど、消火活動を困難にする可能性があります。倉庫は、保管する荷物に対して排煙設備は十分なのかなど、防災計画を設計段階でしっかり立てることが大切です。
倉庫で火災が起きる原因
それでは次に、倉庫で火災が発生する代表的な原因をいくつかご紹介します。
- 電気設備からの出火
倉庫火災の原因として多いと言われているのが、倉庫内で使用される電気設備からの出火です。経年劣化や十分な点検・清掃が行われていない、無理な使用が原因となり、漏電・ショート、接続不良など何らかの不具合が起きた箇所が高温化し発火するというものです。電気設備が原因となる火災は、目につきにくい場所で起こることが多いため、初期消火に失敗し火災が大規模化するケースが多いです。普段から電気設備の点検・整備は小まめに行うようにしましょう。 - 放火やタバコの不始末
不審者による放火や従業員のタバコの不始末、倉庫近くでの焚火などが原因となり、倉庫火災に発展するケースもあります。倉庫内部はもちろん、倉庫周辺での火の取り扱いには十分に注意しましょう。また、倉庫周辺の定期的な見回りや防犯カメラの設置など、不審者を寄せ付けない対策も大切です。 - 倉庫の工事が原因となる火災
倉庫火災では、外部業者が立ち入る改修工事などが原因で火災が発生するケースがあります。例えば、溶接工事や断熱用のウレタン吹き付け工事中に火災が発生した事例が過去に存在します。工事作業による倉庫火災は、作業に使用する工具などから火花が発生し、それが可燃物に着火して燃え広がるケースが多いようです。外部業者には、倉庫内に保管されている物品の特性など、事前に注意点を伝えると共に、ルールを守って作業を行うように働きかける必要があります。 - 荷物の自然発火
倉庫の種類によっては、保管する荷物が自然発火し、火災に発展するケースが考えられます。倉庫で保管される荷物の中には、酸化や空気中の水分との反応、生物発酵などの化学反応により、発熱するものがあり、高温化に気付けなかった場合、倉庫火災に発展する恐れまであります。こうした特性を持つ荷物を保管する場合、倉庫内の温度・湿度管理や適切な換気などが必要です。
倉庫火災が大規模化した事例と要因
倉庫では、万が一の火災の際に、その被害を最小限に抑えるため、消防法で消火設備の設置が義務付けられています。しかし、過去には法に基づいた消防設備が設置されているはずの倉庫で、近隣を巻き込むほどの大火災に発展した事例があります。
倉庫火災が大規模化する要因は、防災設備の不備・使用方法の誤りや、荷物の不適正管理などの問題があるとされています。詳しく紹介します。
防火設備の不適切使用について
大規模倉庫では、「防火シャッター」などの設備を設置することが義務付けられています。しかし、防火を目的とした設備が適切に利用されていないことから、火災が大規模化する事例が後を絶ちません。
例えば、防火シャッター付近に荷物を置いていることで、それらが障害物となり、火災時にシャッターを閉鎖できず延焼したという事例があります。防火シャッターなどの防火設備は、設置するだけでなく適切に使用することで防火効果が得られます。日常的に防火設備が適切に作動するのか点検する必要があります。その時に、設備の作動を妨げる障害が発見された場合、すぐに障害を撤去したうえで「適切な使い方」を再度周知することが大切です。
大量の荷物を高密度で保管する
倉庫の荷物には適正な区画分けや積載量が規定されています。しかし、倉庫の利益を優先するあまり、過密保管されている場合も多く、これが火災の大規模化の原因となる場合があるとされています。
例えば、保管効率を高めるため、無理に高密度で荷物を保管したことが原因で、火災発生時にスプリンクラーが作動したにもかかわらず、荷物が邪魔になって火元に水が届かず初期消火に失敗したという事例が過去に存在します。ちなみに、この倉庫火災は、倉庫が全焼したという結果に終わっています。
倉庫火災の大規模化は、「安全よりも利益を優先する」など、人的要因が原因となるケースも少なくないので注意しましょう。
倉庫火災を防止するための対策
最後に、倉庫火災を防止するための対策についてもいくつかご紹介します。
電気機器が原因となる火災の防止対策
上述したように、倉庫火災は、倉庫内で使用する電気設備の不具合が原因で発生するケースが多いです。火災を防止するためには、電気機器の漏電やショート、配線の接続不良などを防止するため、普段から点検・清掃を心がけることが大切です。また、万一の事故に備えるためにも、漏電火災警報機などの設置が望ましいでしょう。
この他、建物の雨漏りが原因となり、目視で点検できない場所で漏電が発生し、火災に発展するケースも考えられます。したがって、建物劣化度に合わせて定期的な雨漏り点検を行い、必要であれば建物の改修工事を行いましょう。適切な建物の改修工事は、保管する荷物を守るだけでなく、倉庫火災防止の面でも非常に有効です。
自然発火による火災の防止対策
倉庫で保管する物品の特性によっては、自然発火による倉庫火災の発生が考えられます。倉庫で保管される物品の中には、酸化や空気中の水分との化学反応などによって自然発火を起こす危険があるものもあります。
自然発火の危険がある荷物を保管する倉庫の場合、換気や温度、湿度を徹底管理する必要がありますので、それに見合った設備を導入しましょう。
火元管理と放火対策
倉庫の火災は、放火やタバコのポイ捨てなど、外部の第三者によって引き起こされる可能性もあります。もちろん、従業員のタバコの不始末や倉庫付近での焚火などが原因で火災に発展したという事例もあります。
これらの倉庫火災を防止するためには、火元の管理の徹底が大切です。放火対策としては、敷地内に不審者が侵入できないように管理を徹底する、防犯カメラなどを設置し監視するなどが考えられます。また、倉庫周辺に燃えやすいものを置いておくとそれに放火される恐れがありますので、燃えやすいものを散乱させないように、倉庫周辺の整理、清掃を徹底するなどの対策も有効です。
消防設備の設置
最後は、適切な消防設備を設置するという対策です。これは、火災を直接防止するという対策ではありませんが、適切な消防設備を設置することで延焼を抑えることができ、火災の大規模化を防ぐことができるようになります。
火災報知機や消火器などを設置することはもちろん、施設規模に見合ったスプリンクラー設備を導入することで、初期消火に失敗することを防止し火災の大規模化を防ぐことができます。なお、倉庫などの物流施設では、消防法によって消防設備の設置が義務付けられています。倉庫などへの消防設備の義務付けについては、弊社が運営する別サイトの中で詳しく解説していますので、以下の記事をご確認ください。
関連:物流倉庫新設の注意ポイント!消防法で定められた消防設備の設置義務について
まとめ
今回は、倉庫火災の原因や火災を防止するための対策について解説しました。倉庫のような大規模施設では、建築基準法や消防法など、法律により使用建材や区画分けの規定、防火設備の設置などが定められています。倉庫の火災を防ぎ、人命を優先するためには、法で定められた防火対策を施すのはもちろん、普段からそれらの点検・整備を行うと共に、火災による延焼を防ぐために倉庫周辺の環境整備を心がけることが大切です。
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1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者