新たな工場を建設する際には、工場の生産性や機能性、建設コストが注目されがちですが、どのような法規制を受けるのか、工場建設に関連する法律や条例も考慮する必要があります。
そこで当記事では、工場を建設する際に知っておくべき法律についてまとめてご紹介します。また、工場の建設にかかる費用負担を軽減することができる補助金制度もご紹介します。
Contents
工場建設の際に知っておきたい法令について
工場の建設時には、主に以下の3つの法律が関係してきます。
- 工場立地法
- 都市計画法
- 建築基準法
それぞれの法律について、解説します。
工場立地法
工場立地法は、工場を建設する際に、「敷地内に緑地などを整備し、周辺環境を保護する」ことを義務付けた法律です。この法律が制定されたのは、高度経済成長期真っ只中の1973年のことで、日本各地で急速な工業化が進み、「水俣病」や「イタイイタイ病」、「四日市ぜんそく」などの工業病やさまざまな環境問題が表面化したことで、経済の発展と福祉の向上を両立させるために制定された背景があります。
具体的には、法が定める特定の工場を建設する際には、生産施設の面積を一定の割合におさえたうえで、一定割合以上の緑地を整備しなければならないという規制が設けられています。なお、ここでいう『特定の工場』とは、以下の条件に該当するものです。
- 業種:製造業、電気・ガス・熱供給業(水力、地熱及び太陽光発電所は除く) (施行令第1条)
- 規模:敷地面積 9,000㎡以上 又は 建築面積 3,000㎡以上 (施行令第2条)
上記の条件に該当する特定工場は、以下の場合、工場所在地の自治体に届け出が必要になります。
- 特定工場の新設や増設、用途変更をする場合
- 生産品を変更する場合
- 建築面積・緑地面積を変更する場合
- 環境施設を設置する場合
工場立地法では、工場内における生産施設面積の割合も規定されており、「敷地全体の30〜65%以内(業種による)」と定められています。また、環境施設と緑地面積の割合は、以下のように決められています。
- 環境施設面積(緑地面積を含む)・・・敷地の25%以上
- 緑地面積・・・敷地の20%以上
国が定める範囲は上記の基準が原則ですが、地方自治体が定める準則により基準が緩和されるケースもあります。
参照:経済産業省「工場立地法の概要」より
都市計画法
都市計画法は、工場の立地に関係する法律です。工場のような施設は、どこにでも自由に建てられるわけではありません。都市計画法は、土地が属する地域によって、建てられる建物と建てられない建物を定めており、立地によっては、どれだけ自社工場にとって利便性が高い土地があったとしても、工場を建設できない場所があります。
都市計画法は、以下の目的で制定された法律です。
都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 引用:e-Gov|都市計画法
都市計画法では、日本の国土を「都市計画区域」と「準都市計画区域」に分類しています。そして、都市計画区域は、さらに「市街化区域」と「それ以外の区域(市街化調整区域など)」に分類されており、この中で工場の建設が可能なのは、市街化区域のみになります。 そして、市街化区域も、土地利用の観点から以下の12の用途地域に分類されていて、用途地域によって、建設可能な工場の種類が制限されます。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 工業地域
- 準工業地域
- 工業専用地域
なお、上記の用途地域の中で、工場の建設に適した用途地域は、準工業地域、工業地域、工業専用地域となります。
参照:国道交通省近畿整備局「用途地域」
建築基準法
建築基準法は、工場に限らず、全ての建物に適用される法律です。この法律は、無秩序な建物の建築を防ぐため、建物の建蔽(けんぺい)率や容積率、建物高さなど、建築の際に守らなければならない最低限のルールを定めています。この法律が無いと、無秩序な建築物が建ち並ぶことになり、人々の安全で快適な生活が脅かされる危険があるので、工場だけでなく、ビルや一般住宅など、全ての建築物がこの法律に則って建てられています。
そして、工場を新設する際には、以下の3つの段階に分けて建築基準法に適しているか特定行政庁による審査・検査が行われます。
- 建築計画の作成(設計)段階 建物の建設計画段階で、その建物が建築基準法に適合しているのか審査されます。問題が無いことが認められて着工となります。
- 施工段階 工場の建設中も、特定の工程が完了した時点で、建築基準法が定める基準に適合しているか検査が行われます。
- 施工完了後 工場の完成後にも検査が行われます。この最終検査で問題が無いことを認められなければ、工場の使用許可が下りない仕組みになっています。
上記以外の関係法令について
工場の建設に密接に関係する法律が、上でご紹介した3つの法律です。ただ、業種や営業内容、工場立地などによっては、その他にも関係する法律があるので注意しましょう。以下に、特定の工場を建設する際に、関係する可能性があるいくつかの法律をまとめてご紹介します。
- 騒音規制法 製造する製品によっては、生産活動に騒音が伴うケースがあります。したがって、騒音を発生する生産設備を設置する工場などは、騒音規制法の対象となり、区域や時間帯により音量の規制が行われます。
- 振動規制法 金属加工機械、圧縮機、織機、印刷機など、振動を発生する特定設備を設置する工場の場合、振動規制法の対象となり、区域や時間帯ごとに定められた基準を守る必要があります。
- 大気汚染防止法 大気汚染防止法は、住民の生活環境を大気汚染から保護する目的で定められた法律です。工場から排出される大気汚染物質については、物質ごとに排出基準量が設けられており、それを守る必要があります。
- 水質汚濁防止法 水質汚濁防止法は、工場などから排出される水、および地下に浸透する水について、公共用水域の水質汚濁を防止するために定められています。公共用水の水質汚染や人の健康に害を与える恐れがある物質について、規制が行われています。
工場建設に際して受けられる補助金
次は、工場の建設に際して、そこにかかるコストを軽減してくれる補助制度について解説します。工場の建設時には、建物だけでなく、生産設備の導入など、多額のコストがかかります。以下のような補助金について、利用できる物があれば、積極的に活用しましょう。
企業立地助成制度
企業立地助成制度は、「この場所に工場を建てたい」「本社機能を地方に移転したい」などの望みを持つ企業に対する補助金制度です。
そして、全国の自治体の中には、地域経済の活性化を目的に、企業立地に対して多額の補助金を支給している場合があります。補助内容については、自治体ごとにかなり違いますので、参考として大阪府の企業立地促進補助金の内容を以下でご紹介します。
※企業立地助成制度は自治体ごとに内容が異なります。工場の建設予定地で企業立地助成制度が行われているのか調べてみましょう。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者が行う「革新的なサービスや製品の開発」、「生産プロセスやサービス提供方法の改善」などに必要な設備、システムの導入にかかる費用を補助してくれるものです。
主な補助対象は、設備投資(機械装置・ソフトウェア構築)になるのですが、新設する工場について生産性向上に繋がるものであれば、そこに導入される設備に適用できる可能性があります。
ものづくり補助金の補助上限額は『一般型:1,000万円、グローバル展開型:3,000万円』で、補助率は「通常枠:中小企業 1/2、小規模企業者・小規模事業者2/3 、低感染リスク型ビジネス枠:2/3」となっています。
HACCP補助金
HACCP補助金は、「農林水産物・食品の輸出拡大を図るため、輸出向けHACCP等の認定・認証の取得による輸出先国の規制等への対応(交付率2分の1)に必要となる施設や機器の整備を支援する。」もので、食品製造にかかわる工場建設に活用できる補助金でした。
この補助金は、「2022年3月13日 ~ 2023年 4月13日」が募集期間となっていて、今回の募集はすでに閉め切られています。ただ、今後も似た内容の補助金が作られる可能性がありますので、補助金の概要を以下の資料で押さえておくのがおすすめです。
参照:HACCP補助金の概要
その他補助金制度
上記以外にも、工場建設に活用できそうな補助金制度はたくさんありますので、以下にまとめます。
サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金 | 詳細はコチラ |
省エネルギー投資促進支援事業 | 詳細はコチラ |
事業再構築補助金 | 詳細はコチラ |
まとめ
今回は、工場の建設に関わる法律や建設コストの負担を軽減することができる補助金制度について解説しました。
どのような建築物を建てる時にも、建築基準法や都市計画法が定める基準に沿って工事を進めなければいけません。そして、工場などの大型施設は、周辺環境に与える影響が大きいことから、業種や生産物によってさらに多くの法律による規制が関係します。
自社の工場建設時に、どのような法律や条例が関係するのかについては、社内の人員で調べることはできるでしょう。ただ、法律の中身や細かな規制については、高い専門性が求められるため、建設コンサルタントや実績のある建設会社に相談しましょう。
三和建設では、お客さまの理想の建物を実現するために、規模や種類にとらわれない工場建設の計画段階から、既存工場の改修・修繕まで豊富な知見と確かな技術でご提案いたします。
1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者