今回は、近年増加する大規模倉庫における防火対策について解説します。総務省消防庁が公表した資料では、平成13年から平成28年までの15年間で、延べ面積5万㎡以上の大規模倉庫の数は6倍にまで増えているとされています。
引用:総務省消防庁「延べ面積5万㎡以上の大規模倉庫の状況」より
現在では、ECサイトで何か購入した場合、早ければ翌日に商品が届く、驚くほどのスピード感を持った配送サービスが実現しています。こういった配送サービスの充実は、続々と建設されている大規模倉庫の存在が非常に大きいと考えられます。
こういった大規模倉庫に関しては、9割以上が耐火建築物となっているなど、火災に対しては万全な対策が施されています。しかし、さまざまな防火対策が施されているはずの大規模倉庫に関しても、大規模火災が発生しているのが実情です。
そこでこの記事では、『防火』の観点から考えた場合の大規模倉庫に存在する弱点や、火災を防ぐために行うべき防火対策について解説します。
Contents
大規模倉庫に潜む防火の視点から考えた弱点について
近年の倉庫は、EC業界での配送サービスの多様化などに対応するため、飛躍的な進化を遂げています。例えば、入荷から出荷までを全てロボットが行う自動倉庫システムなども登場するなど、一昔前の倉庫とは考えられないような機能性の高い施設になっています。
しかし、さまざまな面が進化している大規模倉庫ですが、決して少なくない頻度で大規模火災が発生しているのが実情です。大規模倉庫の火災では、2017年2月に発生した物流倉庫火災が有名ですが、それ以降も、2021年11月にも大型物流倉庫での火災がありましたし、2022年に入っても複数の倉庫火災が発生しています。そして、倉庫火災の特徴は、数日間にわたって燃え続けるなど、火災規模が大きくなってしまうケースが多い点です。
ここでは、大規模倉庫に存在する、防火の観点から見た弱点をいくつかご紹介します。
消火活動が困難な構造になりがち
大規模倉庫では、消火活動が困難な構造になっている施設が多いです。近年増えている大規模物流倉庫は、荷物の搬出・搬入頻度が高いことから、集荷・配送を行う階では、スムーズに荷下ろし・荷積みができるよう、大きな開口部が設けられています。しかし、それ以外の階になると、日射による商品の劣化を避けるなどの目的で『無窓』となっているケースが非常に多いです。この、大規模倉庫に多い『無窓』階については、「窓から避難できない」「停電すると避難路を視認できなくなる」「窓から消火活動ができない」など、さまざまな危険性が指摘されています。実際に、上述した2021年の物流倉庫火災では、「窓や出入り口などの開口部が少ない建物の構造が妨げとなった」という指摘がなされています。
他にも、大規模倉庫内には、商品棚のほかに仕分けや配送のためのコンベア類をはじめ、さまざまな機械類が配置されています。そして、これらの機械・設備は消防活動の視点から見ると、大きな障害となってしまいます。消防隊員にとっては、前進するにしても退避するにしても、こういった機械が邪魔となってしまい、進入経路や退避経路が長大となり、消火活動が困難になります。
このように、大規模倉庫は、「火災が実際に発生した」時には、その建物構造が要因となり、消火活動が困難になります。
多様な可燃物が集積されている
製造業の原材料を保管する倉庫などであれば、どのような物品が保管されているのか、事業者がおおよその情報を把握しています。そのため、万一の火災時には、そういった倉庫の情報を消防隊に渡して、スムーズな消火に役立てることができると言われています。
しかし、これが大規模な物流倉庫になると、内部に保管される物品が大量になるうえ、日々保管する物品が異なるのが普通です。そのため、火災になると、種々雑多な可燃物が燃えることになり、消火活動や消防隊員の安全確保が困難になってしまいます。
さらに、大規模倉庫の火災で大きな問題となるのが段ボールです。段ボールは、紙でできた製品ですので、火災を拡大させてしまう恐れがあるのは想像しやすいですが、問題となるのはその構造です。段ボールは、強度を確保するために、波状に加工した紙を表と裏の紙で挟み込むという構造になっています。この構造は、空気を多く含むため、厚紙を折り重ねたものに比べると、非常に燃えやすいうえ、火力が強くなります。
物流倉庫では、当然、段ボールが大量に存在していますが、段ボールは火災発生の原因となるだけでなく、延焼拡大を早めてしまう非常に厄介な製品となります。こういった保管物品の特徴から、大規模倉庫の火災は、非常に大きくなりがちです。
防火設備の不備
最も注意しておかなければならないのは、施設の安全のために設置されている、各種防火設備が火災時に何らかの問題で作動できない状態になっているというものです。実際に、冒頭で紹介した物流倉庫火災は、消防白書で以下のような指摘がなされています。
端材室上部の開口部(2階部分)の周囲に防火シャッターが設けられていたが、コンベヤに接触して閉鎖障害が生じていた。同様に、防火シャッターの不作動やコンベヤ等による閉鎖障害が2階及び3階において多数確認されており、火災初期の延焼経路となったものと推測される。
引用:平成29年版 消防白書
この物流倉庫では、建築基準法や消防法の技術基準に基づいたさまざまな防火対策が施されていたものの、適切な運用が行われておらず、火災が拡大してしまったとされています。なお、消防庁が公表した「大規模倉庫に対する実態調査の結果」の中で以下のようなデータが存在します。
上の画像から分かるように、さまざまな防火対策が施されているものの、なんと約3割に上る施設で消防用設備などに違反がある状態で運営されています。大規模倉庫では、万一の火災に備えて、さまざまな防火対策が施されていますが、管理が不十分で緊急時に稼働しなくなっているケースも意外に多いようです。
大規模倉庫の防火対策について
それでは、上で紹介したような大規模倉庫の弱点を理解したうえで、どのような防火対策を行っていくべきなのかについて解説していきます。
建物における防火対策について
上述しているように、過去に発生した大規模倉庫火災では、消防法や建築基準法に沿って、消防設備の設置や防火区画の設定などはきちんと行われています。しかし、これらの設備が緊急時に本来の動きをしないことで火災が拡大しているケースが多いです。なお、消防法では以下のように定められています。
第五条 消防長又は消防署長は、防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、火災の予防に危険であると認める場合、消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合、火災が発生したならば人命に危険であると認める場合その他火災の予防上必要があると認める場合には、権原を有する関係者(特に緊急の必要があると認める場合においては、関係者及び工事の請負人又は現場管理者)に対し、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができる。ただし、建築物その他の工作物で、それが他の法令により建築、増築、改築又は移築の許可又は認可を受け、その後事情の変更していないものについては、この限りでない。
② 第三条第四項の規定は、前項の規定により必要な措置を命じた場合について準用する。
③ 消防長又は消防署長は、第一項の規定による命令をした場合においては、標識の設置その他総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。
④ 前項の標識は、第一項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所に設置することができる。この場合においては、同項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所の所有者、管理者又は占有者は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。
引用:e-Gov|消防法
消防法では、万一の火災時には、スムーズに消火活動が行えるようにするため、消火活動の妨げとなるような荷物や資材などの移動を命じることができると定めています。この部分からも、消火栓周辺や非常用侵入口周辺、防火シャッター直下などにおいては、物品などを置いてこれらの設備の使用を妨げるようなことは厳禁だと分かります。
なお、消防法第八条では以下のように定められています。
第八条 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店(これに準ずるものとして政令で定める大規模な小売店舗を含む。以下同じ。)、複合用途防火対象物(防火対象物で政令で定める二以上の用途に供されるものをいう。以下同じ。)その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
② 前項の権原を有する者は、同項の規定により防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
③ 消防長又は消防署長は、第一項の防火管理者が定められていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、同項の規定により防火管理者を定めることを命ずることができる。
④ 消防長又は消防署長は、第一項の規定により同項の防火対象物について同項の防火管理者の行うべき防火管理上必要な業務が法令の規定又は同項の消防計画に従つて行われていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、当該業務が当該法令の規定又は消防計画に従つて行われるように必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
⑤ 第五条第三項及び第四項の規定は、前二項の規定による命令について準用する。
引用:e-Gov|消防法
大規模倉庫などでは、基本的に防火管理者が必要になるのですが、上述したように、約2割の施設で防火管理者の選任・届出に違反があるというデータがあります。
なお、消防法では消防設備の設置義務などについても定められていますが、消防設備に関しては特殊倉庫ブランドRiSOKOの記事で詳しくご紹介していますので、そちらをご参照ください。
関連記事:工場や倉庫の安全対策!従業員を守る「消防設備の基本」を解説
従業員に対する火災訓練が重要
平成29年2月16日に埼玉県三芳町で発生した倉庫火災を受け、消防庁からは「大規模倉庫における火災の教訓」という資料を公表しています。従業員の安全を守るための火災訓練も重要です。ここでは消防庁が公表した大規模倉庫における火災の教訓について重要なポイントをご紹介します。
- 火災発見時は直ちに適切な通報を
大規模倉庫などでは、万一の火災を想定した消火訓練・避難訓練は定期的に行われている場合が多いです。しかし、こういった施設でも、通報訓練は行われておらず、119番通報が遅れてしまうことで火災が拡大してしまうケースがあります。そのため、火災発見時に躊躇なく、適切な通報ができるよう、普段から通報訓練も行うことが推奨されています。
- 屋内消火栓設備又は屋外消火栓設備を用いた初期消火訓練
事業所で定期的に行われる消火訓練では、多くの場合、消火器を使用した訓練にとどまっています。実際に、過去に発生した大規模倉庫火災では、屋内消火栓(屋外消火栓)設備が正しく使えないことで初期消火に失敗したというケースが存在します。大規模倉庫などでは、さまざまな消防設備が導入されますが、従業員が正しい利用法を理解していなければ意味がありません。したがって、屋内・屋外消火栓設備を使った消火訓練などもきちんと行っておきましょう。
- 従業員が円滑に避難できるよう避難訓練を行う
大規模倉庫は、背の高い棚が並んでいる、コンベヤなどが設置されていることで、避難経路が非常に複雑になってしまいます。そのため、実際の火災時のことを想定して避難訓練をしておかなければ、訓練時と火災時の大きな違いによりスムーズに避難することができない場合が多いです。火災が発生した場合、停電で施設内が暗くなったり、防火シャッターが下りて想定通りに避難できない可能性があります。したがって、避難訓練を行う際には、火災発生時の具体的な状況を想定し、訓練を行う必要があります。
まとめ
今回は、大規模倉庫の防火対策についてご紹介してきました。現在でも拡大を続けるEC市場ですが、購入者の手元に素早く安全に商品が届くのは、日本各地に点在する大規模物流倉庫が稼働しているお陰です。近年では、人手不足や配送サービスの多様化などに対応するため、さまざまな最新技術が倉庫業界に導入されています。ただ、業務効率化や生産性向上の面では飛躍的な進化を遂げている倉庫ですが、火災の発生を完全に防げるような状況にはなっていません。
この記事で紹介した大規模倉庫における防火対策の基礎知識も参考に日々の防火対策に努めましょう。
1990年三和建設株式会社 入社、2021年同社 専務取締役就任
改修工事は新築以上に経験が求められます。これまでの実績で培ったノウハウを惜しみなく発揮いたします。 特に居ながら改修については創業以来、大手企業様をはじめ数多くの実績があり評価をいただいています。工事だけではなく提案段階からプロジェクトを進める全てのフローにおいて、誠実にお客さまに寄り添った対応を行い、 安全で安心いただける価値を提供いたします。
施工管理歴15年、1級建築施工管理技士、建築仕上げ改修施工管理技術者